#38 報酬依存度と独立性①

報酬に関するIESBA倫理規程の改訂

国際会計士倫理基準審議会(IESBA)が「報酬に関するIESBA倫理規程の改訂」を2021年4月に公表しており、7月に翻訳版を公表しています。
これを踏まえて、日本公認会計士協会は「報酬に係るIESBA倫理規程改定案」に対する意見を6月に公表しています。
(公認会計士協会の意見は、IESBAの改定案段階で出していますが、翻訳版と意見書を見比べれば大体関係性は掴めます)

↓ 翻訳版公表記事はコチラ
報酬及び非保証業務に関するIESBA倫理規程の「結論の背景」の 翻訳の公表について | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp)
↓ 意見書はコチラ
国際会計士倫理基準審議会(IESBA)公開草案「報酬に係るIESBA倫理規程改訂案」に対する意見について | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp)

いくつかの切り口で書かれているようですが、報酬依存度の箇所について書いてみたいと思います。

IESBAと協会の見解

読むと非常に長く(私も全部読めませんでした)疲れます。
何のことか?まず平たく言います。

・これは「報酬依存度が高い監査法人をより厳格に規制しよう」というものです。
・会計監査業界では重要な「独立性」が問題の背景ですね。
・それにつき、IESBAという国際機関が改訂案を出しました。
・より独立性が問題になるのとそうでない業務で分けて、
・特に前者には強い規制をかけよう。
・だけど、日本の協会がいくつか反対している。

といった感じです。

もう少し具体的に見てみます。
なお、理解に資するよういくつか定義を書いておきます。

・社会的影響度の高い事業体(以下、PIE) → とりあえず上場会社と考えてください。
(厳密には他にもありますが、ややこしくなるので)
・監査法人 → 厳密には会計事務所等も含みますが、監査なので監査法人にひっくるめて考えます。

それぞれの意見

※ 簡潔な理解のために、厳密な部分を一部端折っていますので、正確な把握をされたい場合は公表資料等をお読みください。

まずはIESBAによる改訂内容です。

<IESBA>
① 1つのPIEからの報酬依存度が2年間15%超の場合、監査報告書発行前に他の監査法人メンバーによるレビュー(発行前レビュー)を行う。
② ①の状況が5年間継続の場合、5年目の後に監査人を辞任する。
③ 一定の条件を元に②以外の方法を採れる。一定の条件とは、監査法人が国等と協議し同意を得ること、且つ、6年目以降も発行前レビューを行う。
④ PIE以外からは、報酬依存度が5年間で30%超の場合、5年目及び6年目以降、発行前レビューを行う。

これに対しての協会の意見です。

<協会>
① 支持する。
② 支持しない。主な理由は以下。
・倫理規程変更の負担と公共利益のメリットの双方の分析を十分に行うべき。
・日本は他国より上場会社数及び中小監査法人による監査が多く、辞任条項の適用ケースが想定される。
→ 企業、監査人共に影響大、双方の理解を得て要否を判断すべき。
・辞任という強い手段でなく、報酬依存度開示といった方法もある。
③ 支持する。
④ 支持しない。PIE以外はまさに社会的影響度は高くないとしているにも関わらず、一方で数も非常に多く、遵守状況のモニタリングが困難で実効性に疑問。(PIE以外も独立性の確保が必要なのは異論はない)

つまり、
・PIEなら発行前レビューとか要協議はOKだが、辞任はNG
・PIE以外は発行前レビューも不要

これでも適用されたら監査法人には大きな実務上のインパクトだなという印象です。
特に中小監査法人は影響は大きそうです。

これに関する私の所感と、テーマ背景である独立性については、次回のブログへと回します。

-会計と倫理・生き方, 専門知識・実務・お仕事
-,